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設え

丸庄の姿勢

「設え」とは、もともと、“誰かのために空間を丁寧に整えること”を指す言葉です。見せるための飾りではなく、日々の暮らしが心地よく流れるように、家具や空間をそっと整えること。詩家では、そうした設えを、「ふるまいや感性に寄り添う“静かな仕組み”」として、大切に考えています。

光の設え

照らすのではなく、包む

丸庄の照明設計は、ただ空間を明るくするためのものではありません。暮らしの気配や時間の流れを、静かに整えるための設えのひとつです。

私たちは、光の重心を下げることを意識し、天井から一方向に照らすのではなく、壁付けのブラケットライトやペンダント照明、間接照明を組み合わせて配置します。それぞれの光が、空間を点ではなく面としてやわらかく包み、空気に濃淡と奥行きを与えてくれます。

とくに間接照明は、壁や天井に光を反射させることで、眩しさのない穏やかな明るさをつくり出し、部屋全体に静けさをもたらします。また、多灯分散という考えのもとで、必要な場所に必要な灯りだけを添えることで、空間にリズムが生まれ、朝と夜、日中と夕暮れの“時間の切り替え”が自然に感じられるようになります。

光は、人のふるまいや気持ちのペースを静かに導くものです。どこに灯りを置くか。どのような明るさにするか。その選択ひとつで、暮らしの佇まいは大きく変わっていきます。

照明は、主張するための道具ではなく、暮らしを美しく支えるための、静かな設えです。

家具の設え

ふるまいに沿う、使うための佇まい

丸庄では、空間に合わせて家具を“設える”ことが多くあります。
それは、家具そのものが、ふるまいを導く存在だと考えているからです。

  • 手の届く範囲で完結する収納
  • 使い方を限定しない、余白のある棚
  • 見せたいものと隠したいものの距離感

家具は道具であると同時に、暮らしの流れを整える静かな装置。

引き算の設計が、所作を美しくしてくれます。

建具の設え

空間の“気配”を整える

丸庄では、建具はすべて造作です。素材や意匠はもちろん、寸法や手触りまで、空間とふるまいに合わせて一つひとつ設計しています。それは建具を、ただの仕切りではなく、暮らしの中の“設え”のひとつとして考えているからです。

また、私たちは建具の多くを引き戸でつくります。それは、空間を分けるためではなく、人の動きや気配が途切れずに流れていくようにするため。引き戸なら、場所を取らず、視線や空気を妨げずに、空間の奥行きや静けさを保ったまま、仕切ることができます。

建具というと、空間を「閉じるもの」というイメージがあるかもしれません。けれど詩家では、それとは逆に、“流れをつくるもの”として建具を設計しています。

格子や半透明の意匠を用いれば、気配だけをつなぎ、視線だけをやわらかく遮る。音を立てずにスッと開く引き戸の感触も、ふるまいを静かに整えてくれます。

建具は、暮らしを区切るのではなく、ふるまいと気配を、静かにつなげる設えです。